大吟醸酒

 先日吟醸酒の話を書いた後、タイミング良く大吟醸酒の初搾りに立ち会えるという幸運に恵まれた。池田町にあるこの蔵元は以前にも訪れた所だ。出迎えてくれたご当主は中村和右衛門さん。当主を引き継いだときに襲名したという立派なお名前が蔵元の歴史を物語っている。ひんやりとした酒蔵にはいると、仕込みタンクが並ぶ。目的のタンクにかけられた小さな梯子をのぼり、タンク内をのぞき込むと、発酵が終わり熟成したもろみが、絞ってくれとばかりに甘い香りを放っている。

 この日この蔵元を訪れたのには特別の意味があった。実はこのタンク内の米はお酒好きな人たちが、自分たちの手によって育てた米(山田錦)なのである。自分たちで育てた米をこの蔵元に預けて、立派な吟醸酒に仕立ててもらおうというのが目的で、今日がその初搾りの日であったのだ。

 ポンプが作動し、タンク内の熟れきったもろみが搾り器へと送り込まれる。但馬から来たという杜氏さんの、酒造りのうんちくを聴きながら、搾られるのを待つ。今回使ったのは徳島産の酵母だという。佐那河内村で育った米と酵母と水、すべて徳島産の材料による、徳島の人たちが造ったお酒、精米歩合は50%というから、立派な大吟醸酒だ。

 搾られて出てきたお酒を待ちきれずに、柄杓ですくって飲むと、甘い香りと優しい味に思わず顔がほころぶ。お米を育てた人たちの顔からは、安堵の表情が見て取れる。しばしの無言のあと、それぞれに感動を表現しようとするが、お酒のおいしさを言葉で表現するのは難しい。うんうんと頷きながら喜びを噛みしめている。まずは大成功、今回の仕込みでは約500本の大吟醸酒ができるという。その後は絞ったお酒をいただきながらの宴会。

 田植えや、刈り取りの様子を話しながら酌み交わすお酒はまた格別だ。米作りの現場に居合わせなかったことが悔やまれる。参加した人たちは自分たちのお酒にふさわしい名前をと知恵を絞るが、それぞれに思い入れがあり、なかなかまとまらない。折しも灘では「甘辛しゃん」と名付けられたお酒が発売されたとか。この手作り大吟醸酒、果たしてどんな名前で店頭に並ぶのだろう? お酒の嫌いな方には申し訳ないが、酒を語り酌み交わす喜びを2度までも綴ることをお許し願いたい。



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