横綱の負け越し

 大相撲九州場所もいよいよ終盤を向かえているが、秋場所怪我を押しての出場の結果負け越した、横綱若乃花の休場が気になっている。
大相撲が15日制になってから横綱が皆勤して負け越したのは、89年秋場所の大乃国が初めての事であった。当時は恐らく大半の人たちが、横綱が本当に負け越すとは予想していなかっただろう。千秋楽の取り組みで大乃国が北勝海に敗れると、場内はどよめき、テレビの解説者も、初の横綱の負け越しを興奮気味に伝えていた。横綱は負けが込んでくると必ず休場するものと思っていただけに、大乃国の負け越しは大変ショッキングであり、角界内外に大きな波紋を呼んだ。

 あれから10年たった先場所、横綱若乃花が7勝8敗で負け越してしまった。横綱の進退問題も当然ながら話題になり、メンツを重んじる角界は当の若乃花の態度に苦慮している様子であった。横綱の地位は他のスポーツに比べても極めて特異な存在だ。どんなに負けても番付が下がることはないが、横綱には大関以下とは違ったものが要求される。「横綱相撲」という言葉があるくらいに、力、技に加えて品格までもが求められ、角界を代表する力士として、全てにわたって模範とならなければならないという。

 横綱が負け越すのは決して気分のいい事ではないが、正々堂々戦って負け越したら仕方ないではないか。人間誰だって好不調はある。プロスポーツ選手の場合は戦いに備えて体調を整えるのが当たり前のことである。それでも調整が間に合わなかったり、事情が許さない場合も多々あるはずだ。体調の不十分なままに本場所を向かえることもある。休場すれば、黒星には数えられないし、一応横綱の体面を保つことが出来る。怪我をおして土俵に上がり続けた若乃花には、こうした角界の常識への無言の抵抗があった事も想像できる。

 横綱のありようも時代と共に変わる。この時代に昔ながらの全てを兼ね備えた横綱を期待するのも酷な話ではなかろうか。「お兄ちゃん」と呼ばれ親しまれている横綱若乃花の心中を思うと、「負け越した横綱も良いんじゃないの」と言ってやりたくなる。もちろん、再起後は横綱のプレッシャーに負けずに頑張って欲しいが、角界の皆さん、横綱の制度をそろそろ改める事も考えてはどうだろうか。

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