袋井の夏休み


 仕事に追われ、お盆休みもやっとだというのに、夏休みと聞くと、少年の頃のながーい夏休みが懐かしく思い出され、なぜかうれしい気分になる。 
 小学校五年生の夏休みはこうだった。朝はラジオ体操にはじまり、食事のあとは少しばかり宿題をするふりをして、午後になれば決って川に泳ぎに行った。当時袋井用水は、おおぜいの友達が遠くからも集まってきていて、貸しボートも何隻かあり、格好の水泳場であった。

 湧水ゆえの美しさと冷たさが評判で、自然と準備運動も普段より丁寧に行った。三十分もするとくちびるは紫色になり、あごがカチカチと音をたてはじめ、しゃべる言葉もままならない。全身をふるわせながらも、よく泳いだものだ。近所の人が焚火をしてくれて、暖まりながら泳いだ記憶もある。泳ぎがあまり得意でなかった私には、国道の橋の上から飛び込む、勇気ある友達がまぶしかった。

 その夏、連日袋井用水に通い、夏休みの終り頃には水泳は格段に上達し、以後今日まで多少の自負心を持ち続けている。
 私の通っていた加茂名小学校の校庭にも、袋井用水が流れていて、春先には膝まで浸かって、透き通った川底からヤゴを見つけ出すのに熱中したのもなつかしい。

 この袋井用水を掘るのに一生をささげた人、楠藤吉左ヱ門が、例年「夏休みの友」に紹介されている。身近に偉人を発見した喜び、袋井用水で覚えた水泳、どちらも少年時代の夏休みの大きな想い出だ。現在も吉左ヱ門さんの偉業は語り継がれている。しかし役目を終えたのか、「流れも清き袋井の...」と加茂名小学校校歌に歌われ、私たちを育んでくれた袋井用水も、時代と共に変貌し昔の面影はない。
 今や河川の汚染は全国レベルで急ピッチにすすんでいる。夏休みに泳いだ、冷たく美しい袋井用水はもう取り戻せないのだろうか?


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