ドナーカード

 高知医大に於ける脳死移植の狂乱報道から一月余りがたった。1997年10月に臓器移植法案が国会を通過してから初の脳死移植とあって、もっぱら脳死判定のあり方に視点は集中し、時々刻々と変わる状況の中で担当医、関係者の焦りも生々しく伝えられていた。また、ドナー(臓器提供者)の家族、病院その他関係者への取材のあり方が新たな議論をも呼ぶ結果となった。

 欧米では一般化しているとはいえ、移植治療に抵抗を持つ日本人はかなり多く、為に日本の移植治療は遅れているという。移植治療を望む患者が渡米するケースも多く、それが国際摩擦の一因にもなっているという意見もある。

 移植治療にはドナーが不可欠である。臓器移植法に則って臓器が提供できるためには、本人及び家族の了解が必要であるが、本人の意志表示をするためのカードがドナーカードだ。厚生省は臓器移植法案の可決と共にドナーカードの配布をはじめたが、現在はコンビニエンスストアで配布したり、自治体のホームページで、ドナーカードをプリントアウト出来るようにして、いっそうの普及を計っている。天使がデザインされたこのカードは、臓器の提供が愛の行為に基づいたものであることを暗示しているかのようだ。

 一方、ノンドナーカードと呼ばれる、臓器を提供しない意志を表示するためのカードも、市民団体等によって発行されている。移植治療への反対の意志表示でもあると同時に、万が一、意志に反して臓器が摘出されることを防ぐためのものでもある。

 今回の一連の報道の中では、脳死判定とそれ以後の移植手術の技術的な部分に興味が集中し、移植治療そのものに対する疑問の声は紙面には現れていなかった。むしろ移植は歓迎されるものであるとの確信に満ちていたように思われた。また、これを契機にドナーカードの普及を目指したい旨の、政府関係者の声も聴かれた。
 
 ドナーカードは、人間の生死に関わる扱い切れぬ部分を含んだ、この問題への意志表示のカードである。臓器移植法案が可決されているとはいえ、理解を求める余りの急速な普及活動は、移植に反対の立場をとる人たちへのストレスとならないとも言えないのである。

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