演歌

 ここ数年来、演歌のCDの売上は落ち込み、人気歌手といえども安心できないような状況が続いているという。義理と人情の男の世界、恋と未練の女の情念などをねっとりと歌った演歌にくらべ、テンポの速いノリのいい曲で、女子高校生らをターゲットにしたアイドル歌手のCDは、ミリオンセラー続出という対照的な状況を示している。

 演歌は和声的にはれっきとした西洋音楽であるが、歴史的に見れば、明治時代の音楽教育改革によって取り入れられた西洋音楽を、日本の音楽と折衷することにより、日本独自の文化を持った、今日の演歌の前身が完成したと言って良いだろう。演歌の始まりは、幕末の頃歌われた「宮さん、宮さん」だと言う説があるが、大正3年の「カチューシャの唄」の大ヒットは流行歌の第一号として記念すべきだ。

 日本の演歌は、カラオケのおかげで韓国やアジアで持てはやされた事もある。親しみやすさ、とうよりメロディーの歌い安さ、あるいは単調さが、良くも悪しくも演歌の持ち味でもある。演歌の世界では現在も尚、七五調など韻を踏んだ歌詞が主流となっているが、70年代のニューミュージックが幅を効かせ始めた頃からか、日常会話風の歌詞を持ったポップスが目立つようになり、歌詞はもはや詩としての美しさを持つ必要はなくなった。やたら早口で語りかけたり、何語か分からない発音をしたりするのも、言葉から直接受ける意味を和らげると同時に、より音楽的な響きを出すためらしい。だが、歌うに難しく、聴いて訳の分からない歌詞を好み、しかも次々と大量に新曲を消費して行く状況からは、今後も歌い続けられるような歌を期待することは難しい。

 一方懐メロと呼ばれ、おじさんやおばさんがカラオケで好んで歌う演歌には、まだまだこれからも歌い続けられるだろうと思われる美しさがある。演歌の中にも名曲もあれば、そうでない曲もあるが、永年歌い継がれてきた懐メロと呼ばれる演歌にはそれなりの風格が感じられて良いものである。CDの売り上げが落ちたとは言え、演歌そのものの価値が下がったわけではない。CDは買わねども、友と出会い酒を酌み交わした後には、カラオケでしっかり演歌を歌って帰るのが慣わしだ。著作権料はきっと作詞、作曲家の手に配分されているはずである。演歌はまだまだ健在だ。



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