琵琶の音

 4月8日北島町立図書館・創世ホールで、薩摩琵琶の展示会とコンサートを聴いた。
琵琶と聞いて思い出されるのは、かのラフカディオ・ハーンの描いた怪談「耳なし芳一」。私の琵琶体験は子供の頃の、この怖い話から始まっている。どこかで見た盲目の琵琶法師の絵姿もその話を彷彿とさせ、琵琶の音は異次元の世界から来る危うい音のように感じられるのだ。琵琶は中国や朝鮮から渡来し、雅楽の合奏に用いられた楽器であるらしいのだが、後には盲僧が経文を唱える為の楽器としても用いられ、他の邦楽器とは少し違った道を歩むようになったと考えられる。

 さて、そんな歴史的な事情を持った琵琶が、会場入り口付近に展示されている。作ったのは北島町にお住まいの小林絃水さんである。周りには製作中の写真や関係する他の資料も展示されている。土曜日の午後、満席の状態の中、数人の人たちが、琵琶を抱えて、体験学習をしている。年輩の方の中に混じって若い人たちも何人かいた。一時体調を崩されていたと言う絃水さんも舞台で元気な演奏を聴かせてくれた。お弟子さん達の言葉の端々からは、自ら琵琶を作り今日まで指導して来られた絃水先生への想いが感じられ、暖かい物を感じた。ここにある琵琶は殆ど絃水さん自らが作った物だが、、琵琶の材料は桑の木が最上だという。良い楽器を作るために、良い材料を求めて八丈島まで行ったと語る絃水さんの目は、少年のように輝いていた。

 夜は場所を変えて、藍住町の「うなぎや」。大勢の人が集まる中で、岩崎晴龍氏の演奏が始まった。琵琶語りの世界「首護送」と題した岩崎晴龍氏の演奏は、語りのふんだんに入った、大変親しみやすく魅力ある作品であり、琵琶の音を孤高の存在と思っていた私には、新たな発見となり、大変楽しい一時を過ごさせてもらった。

 琵琶という楽器にこれだけ多くの人が集い、語りあう様を見て、徳島に小林絃水さんが撒いた種は確実に広がりを見せており、文化として根付いている事を実感した。
病後と言いながらも、元気な姿で演奏を聴かせて下さった絃水さん、もう琵琶は作れない、と語る顔には、やや寂しさが感じられたが、絃水さんの作った琵琶の音は、今後もこの徳島でその輝きを失うことは無いだろう。

戻る

powered by Quick Homepage Maker 4.81
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM